歯列矯正と睡眠時無呼吸症候群|いびき改善効果と治療の関係
「家族からいびきがうるさいと言われる」「朝起きても疲れが取れない」「日中に強い眠気を感じる」このような症状に悩まされている方は、もしかすると睡眠時無呼吸症候群かもしれません。
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする病気で、放置すると心臓病や脳卒中など、深刻な健康問題につながる可能性があります。実は、この症状が歯並びや顎の位置と深く関係していることをご存知でしょうか。
歯列矯正は、単に見た目を美しくするだけでなく、気道を広げることで呼吸を改善し、いびきや睡眠時無呼吸症候群の症状を軽減できる可能性があります。この記事では、歯列矯正と睡眠の質の関係、治療による改善効果、そして専門的なアプローチについて詳しく解説します。
目次
- 1.睡眠時無呼吸症候群といびきの基礎知識
- 2.歯並びや顎の位置が呼吸に与える影響
- 3.矯正治療による睡眠の質改善のメカニズム
- 4.睡眠時無呼吸症候群に効果的な矯正治療
- 5.矯正治療以外の補助的なアプローチ
- 6.よくある質問(Q&A)
- 7.まとめ
1. 睡眠時無呼吸症候群といびきの基礎知識
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、略してSAS)は、睡眠中に呼吸が止まる、または極端に浅くなる状態が繰り返される病気です。
医学的には、10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上、または7時間の睡眠中に30回以上起こる場合に、睡眠時無呼吸症候群と診断されることが一般的です。
主な症状:
- ・大きないびき(周囲の人が気づくことが多い)
- ・睡眠中の呼吸停止(家族が気づくことがある)
- ・夜中に何度も目が覚める
- ・朝起きた時の頭痛や口の渇き
- ・日中の強い眠気
- ・集中力の低下
- ・疲労感が取れない
日本では、潜在的な患者様を含めると、成人の約2〜4%、つまり200万人以上がこの症状に悩まされていると推定されています。
いびきと睡眠時無呼吸症候群の関係
すべてのいびきが睡眠時無呼吸症候群を意味するわけではありませんが、大きないびきは重要なサインです。
いびきは、睡眠中に気道が狭くなり、空気が通る際に喉の粘膜が振動することで発生します。この気道の狭窄が進行すると、完全に塞がってしまい、呼吸が止まる状態、つまり睡眠時無呼吸症候群につながります。
例えば、ストローを想像してみてください。ストローを少し押しつぶすと、空気を吸う時に「ヒューヒュー」と音がします。さらに強く押しつぶすと、空気が全く通らなくなります。気道でも同じようなことが起きているのです。
健康への深刻な影響
睡眠時無呼吸症候群は、単に睡眠の質が悪くなるだけではありません。長期的には、以下のような深刻な健康問題を引き起こす可能性があります。
健康リスク:
- ・高血圧(通常の2〜3倍のリスク)
- ・心筋梗塞や不整脈
- ・脳卒中(リスクが約4倍)
- ・糖尿病
- ・うつ病
- ・認知機能の低下
また、日中の眠気による交通事故や労働災害のリスクも高まります。研究によると、睡眠時無呼吸症候群の患者様は、健康な人に比べて交通事故を起こすリスクが約2〜7倍高いと報告されています。
2. 歯並びや顎の位置が呼吸に与える影響
多くの方が驚かれるのですが、歯並びや顎の位置は、呼吸の質に大きな影響を与えます。
顎が小さいことによる気道の狭窄
現代人は、柔らかい食事が中心になったことで、顎の発育が不十分になる傾向があります。顎が小さいと、舌を収めるスペースが狭くなり、舌が喉の方に落ち込みやすくなります。
顎の小さい方の特徴:
- ・歯が並びきらずに重なっている
- ・顎が後退している(横顔で見ると顎が引っ込んでいる)
- ・口が小さい
- ・奥歯が内側に傾いている
舌が喉の方に落ち込むと、仰向けで寝た時に気道を塞ぎやすくなります。これが、いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因となることがあるのです。
出っ歯や受け口と気道の関係
出っ歯(上顎前突)の場合: 上の顎が前に出ていると、下の顎が後ろに下がった状態になりやすく、舌のスペースが狭くなります。これにより、舌が気道を塞ぎやすくなることがあります。
受け口(下顎前突)の場合: 一見、下顎が前に出ているので気道が広そうに思えますが、上下の顎のバランスが崩れていることで、気道が狭窄することもあります。
歯並びと口呼吸の悪循環
歯並びが悪いと、鼻呼吸がしにくく、口呼吸になりやすい傾向があります。
口呼吸の問題点:
- ・喉が乾燥し、炎症を起こしやすい
- ・舌の位置が下がり、気道を狭くする
- ・顔の筋肉のバランスが崩れる
- ・さらに歯並びが悪化する
例えば、前歯が出ていると、唇を閉じにくく、自然と口が開いた状態になります。すると、鼻ではなく口で呼吸するようになり、舌の位置が下がって気道が狭くなるという悪循環に陥ります。
舌の位置の重要性
健康な状態では、舌の先端は上の前歯の裏側の歯茎付近に軽く触れており、舌全体が上顎にフィットしています。この位置を「正しい舌位置」と呼びます。
しかし、歯並びが悪いと、舌が正しい位置に収まらず、下の方に落ち込んでしまいます。特に睡眠中、仰向けになると重力によって舌がさらに喉の方に落ち込み、気道を塞いでしまうのです。
3. 矯正治療による睡眠の質改善のメカニズム
歯列矯正によって歯並びや顎の位置を改善すると、どのように睡眠の質が向上するのでしょうか。
気道スペースの拡大
矯正治療で歯並びを整え、顎を適切な位置に誘導することで、口の中の容積が広がります。これにより、舌を収めるスペースが確保され、気道が広がります。
改善のメカニズム:
- 1.歯列を広げることで、口腔内の容積が増える
- 2.舌のスペースが確保される
- 3.舌が正しい位置に収まるようになる
- 4.気道が広がり、呼吸がスムーズになる
- 5.いびきや無呼吸の症状が軽減される
研究によると、矯正治療後に気道の容積が平均で10〜30%増加したという報告もあります。
下顎の位置の最適化
特に、下顎が後退している方の場合、矯正治療によって下顎を前方に誘導することで、気道が広がり、呼吸が改善されることがあります。
下顎を前に出すということは、単に歯を動かすだけでなく、顎の骨の位置そのものを変えることを意味します。成長期のお子様であれば、顎の成長をコントロールすることで、より効果的に改善できることがあります。
鼻呼吸への移行
歯並びが整うことで、唇を自然に閉じやすくなり、口呼吸から鼻呼吸へと移行しやすくなります。
鼻呼吸のメリット:
- ・鼻で空気が加湿・浄化される
- ・喉の乾燥や炎症が減る
- ・舌が正しい位置に保たれる
- ・顔の筋肉のバランスが改善される
- ・睡眠の質が向上する
鼻呼吸ができるようになると、睡眠中の酸素摂取量が増え、深い睡眠が得られやすくなります。
顔面骨格のバランス改善
矯正治療は、歯だけでなく、顔全体のバランスにも影響を与えます。
適切な咬み合わせと顎の位置は、顔面の筋肉や骨格のバランスを整え、気道を支える構造を強化します。これにより、睡眠中に気道が塞がりにくくなるのです。
4. 睡眠時無呼吸症候群に効果的な矯正治療
睡眠時無呼吸症候群やいびきの改善を目的とした矯正治療には、いくつかのアプローチがあります。
小児期の早期矯正治療
成長期のお子様の場合、顎の成長をコントロールする治療が非常に効果的です。
小児矯正のメリット:
- ・顎を広げることで、気道を確保しやすい
- ・顔面骨格の成長を適切な方向に誘導できる
- ・舌の正しい位置を学習できる
- ・鼻呼吸の習慣を身につけやすい
例えば、上顎を広げる「急速拡大装置」や、下顎の成長を促す「機能的矯正装置」などが使用されることがあります。
幼少期から適切な治療を行うことで、将来的な睡眠時無呼吸症候群のリスクを大幅に減らせる可能性があります。
成人の顎矯正手術を併用した治療
重度の顎の後退や非対称がある成人の場合、矯正治療に加えて顎矯正手術を行うことで、気道を大幅に拡大できることがあります。
外科的矯正治療:
- ・下顎を前方に移動させる手術
- ・上顎を前方・下方に移動させる手術
- ・両顎を同時に移動させる手術
これらの手術によって、気道の容積が2倍以上になることもあり、睡眠時無呼吸症候群の症状が劇的に改善されることがあります。
マウスピース型矯正装置
近年、透明なマウスピースを使用した矯正治療が人気ですが、睡眠時無呼吸症候群の観点からも利点があります。
マウスピース矯正の特徴:
- ・歯列を広げることができる
- ・段階的に顎の位置を調整できる
- ・治療中も睡眠専用のマウスピースと併用できることがある
- ・見た目を気にせず治療できる
ただし、マウスピース矯正は、すべての症例に適用できるわけではありません。重度の不正咬合や骨格的な問題がある場合は、ワイヤー矯正や外科的治療が必要になることもあります。
5. 矯正治療以外の補助的なアプローチ
矯正治療と併用することで、より効果的に睡眠の質を改善できる方法があります。
睡眠時無呼吸症候群用マウスピース
矯正治療とは別に、睡眠時専用のマウスピース(口腔内装置)があります。
睡眠時無呼吸症候群用マウスピースの仕組み:
- ・下顎を前方に保持する
- ・舌が喉の方に落ち込むのを防ぐ
- ・気道を広く保つ
- ・いびきや無呼吸を軽減する
このマウスピースは、矯正治療中や治療後にも使用できます。矯正治療で土台を整え、睡眠時はマウスピースで気道を確保するという、二段構えのアプローチが効果的なことがあります。
筋機能療法(MFT)
舌や口周りの筋肉のトレーニングを行う「筋機能療法」も、睡眠の質改善に役立ちます。
筋機能療法の内容:
- ・舌の正しい位置を維持するトレーニング
- ・口を閉じる筋肉の強化
- ・正しい飲み込み方の習得
- ・鼻呼吸の習慣づけ
これらのトレーニングを矯正治療と併用することで、治療効果が高まり、後戻りも防ぎやすくなります。
生活習慣の改善
矯正治療の効果を最大限に引き出すために、生活習慣の改善も重要です。
推奨される生活習慣:
- ・適正体重の維持(肥満は気道を狭くします)
- ・就寝前のアルコール摂取を控える(筋肉が緩み、気道が塞がりやすくなります)
- ・横向きで寝る習慣をつける(仰向けより気道が確保されやすい)
- ・禁煙(喫煙は気道の炎症を引き起こします)
- ・規則正しい睡眠リズムを保つ
CPAP療法との併用
重度の睡眠時無呼吸症候群の場合、CPAP(持続陽圧呼吸療法)という治療が行われることがあります。これは、睡眠中にマスクを装着し、空気を送り込むことで気道を広げる方法です。
矯正治療によって気道が広がれば、CPAP療法の圧力を下げられたり、場合によっては不要になったりすることもあります。
6. よくある質問(Q&A)
Q1. 矯正治療だけで睡眠時無呼吸症候群は完治しますか?
A. 矯正治療によって症状が大幅に改善される可能性はありますが、「完治」を保証することは難しいです。
睡眠時無呼吸症候群の原因は複合的で、以下のような要因が関係しています。
主な原因:
- ・顎や歯並びの問題(矯正治療で改善可能)
- ・肥満(体重管理が必要)
- ・加齢による筋力低下
- ・扁桃腺の肥大
- ・鼻の構造的な問題
矯正治療は、顎や歯並びに起因する部分を改善する効果的な方法ですが、他の原因がある場合は、それぞれに対する対策が必要です。
研究によると、矯正治療後に睡眠時無呼吸症候群の指数(AHI)が30〜60%改善したという報告があります。ただし、個人差が大きいため、期待値については歯科医師とよく相談することが推奨されます。
Q2. 矯正治療中にいびきや無呼吸の症状は改善しますか?それとも治療完了後ですか?
A. 多くの場合、治療の進行とともに徐々に改善していきます。
改善のタイムライン:
- ・治療開始後数ヶ月:歯列が広がり始め、舌のスペースが確保され始める
- ・治療中期:顎の位置が変わり始め、気道が広がってくる
- ・治療完了時:最大限の効果が得られる
- ・治療後:安定期を経て、効果が定着する
ただし、治療初期は装置に慣れるまで一時的に違和感があり、かえって睡眠の質が下がることもあります。通常、数週間から1〜2ヶ月程度で装置に慣れてきます。
Q3. すでに睡眠時無呼吸症候群と診断されています。矯正治療を受けるべきでしょうか?
A. 歯並びや顎の位置に問題がある場合は、矯正治療が有効な選択肢となる可能性があります。
まずは、歯科医師に相談し、以下の点を確認することが推奨されます。
確認すべきこと:
- ・現在の歯並びや顎の状態が、睡眠時無呼吸症候群に関係しているか
- ・どのような矯正治療が適しているか
- ・期待できる改善の程度
- ・他の治療法(CPAP、マウスピースなど)との比較
- ・現在受けている治療との併用の可否
睡眠時無呼吸症候群の専門医(耳鼻咽喉科医や睡眠医療専門医)と歯科医師が連携して治療計画を立てることで、より効果的な改善が期待できます。
Q4. 子供がいびきをかいています。矯正治療を受けさせるべきでしょうか?
A. お子様のいびきは、成長発育に影響する可能性があるため、早めの相談が推奨されます。
小児のいびきのリスク:
- ・睡眠の質が悪化し、成長ホルモンの分泌が減少する
- ・日中の集中力が低下し、学習に影響が出る
- ・顔面骨格の発育に悪影響を与える
- ・将来的な睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まる
お子様の場合、扁桃腺やアデノイド(鼻の奥のリンパ組織)の肥大が原因のこともあります。まずは小児科や耳鼻咽喉科で診察を受け、必要に応じて矯正歯科にも相談することが推奨されます。
成長期の矯正治療は、顎の発育を促し、気道を確保する効果が高いため、早期に始めることで、将来的な問題を予防できる可能性があります。
Q5. 矯正治療の費用は、睡眠時無呼吸症候群の治療として保険適用になりますか?
A. 一般的な矯正治療は、審美目的とみなされ、保険適用外となることがほとんどです。
ただし、以下のような場合は、保険が適用されることがあります。
保険適用の可能性があるケース:
- ・顎変形症と診断され、外科手術を伴う矯正治療を行う場合
- ・特定の先天性疾患による不正咬合の場合
- ・唇顎口蓋裂などの先天異常の場合
睡眠時無呼吸症候群の診断があっても、それだけで矯正治療が保険適用になるわけではありません。ただし、診断の内容によっては、医療費控除の対象となることがありますので、詳しくは歯科医師や税理士にご相談ください。
Q6. 矯正治療を受ければ、CPAPやマウスピースは不要になりますか?
A. 個人差が大きいため、一概には言えません。
矯正治療によって気道が広がり、症状が大幅に改善されれば、CPAPやマウスピースが不要になる可能性はあります。しかし、完全に症状がなくなるかどうかは、治療前の重症度や他の要因にも依存します。
現実的なアプローチ:
- ・矯正治療中もCPAPやマウスピースを継続する
- ・矯正治療完了後に、睡眠検査を再度受ける
- ・改善の程度を確認してから、CPAPやマウスピースの継続を判断する
- ・必要に応じて、CPAPの圧力設定を調整する
矯正治療は、睡眠時無呼吸症候群の「根本的な改善」を目指すアプローチですが、即効性があるわけではありません。治療期間中は、現在の治療を継続しながら、並行して矯正治療を進めることが一般的です。
7. まとめ
歯列矯正と睡眠時無呼吸症候群の関係は、多くの方にとって意外な発見かもしれません。しかし、歯並びや顎の位置が呼吸に大きな影響を与えることは、科学的にも証明されています。
この記事の重要ポイント:
- ・睡眠時無呼吸症候群は、放置すると深刻な健康問題につながる可能性がある病気です
- ・歯並びや顎の位置の問題が、気道を狭くし、いびきや無呼吸の原因になることがあります
- ・矯正治療によって気道を広げることで、睡眠の質が改善される可能性があります
- ・特に成長期のお子様の場合、早期の矯正治療が将来の睡眠時無呼吸症候群の予防につながります
- ・矯正治療は、睡眠時無呼吸症候群用マウスピースや生活習慣の改善と併用することで、より効果的です
「いびきがうるさい」「日中の眠気が取れない」といった症状は、単なる年齢のせいや疲れではなく、歯並びや顎の問題が関係しているかもしれません。
矯正治療は、美しい歯並びを手に入れるだけでなく、健康な呼吸と質の高い睡眠をもたらす可能性があります。それは、人生の質(QOL)を大きく向上させることにつながります。
もし、いびきや睡眠時無呼吸症候群の症状に悩まれているなら、一度歯科医師に相談してみてはいかがでしょうか。歯並びや顎の状態を診察し、矯正治療が有効かどうかを判断してもらえます。
良質な睡眠は、健康的な生活の基盤です。歯列矯正を通じて、美しい笑顔と健康な眠りの両方を手に入れましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。睡眠時無呼吸症候群の診断や治療については、医師の診察が必要です。いびきや睡眠の問題でお悩みの方は、まずは専門医にご相談ください。当院でも、睡眠と歯並びの関係についてのご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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